最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)309号 判決 1950年7月13日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人佐々木清綱上告趣意第一点について。
起訴状の罪名は殺人であり、本件は殺人罪の起訴と認められる。所論のごとく自殺幇助の起訴ではないので、これに対して判決をなさざることは当然であり、窃盗と殺人の起訴事実を併せて強盗殺人と認定しても公訴事実の同一性を欠くものとは認められないから、原判決には所論の違法はない。
同第二点について。
所論の被告人に対する司法警察官作成の第一、二回聴取書が証拠に採られていることは、所論のとおりである。しかし、右聴取書は何れも司法警察官警部補高田平作が直接被告人を取調べて刑事部長小野の取調結果報告及びメモを参照して作成したものであることは、所論引用の各証人調書中の供述記載及び所論聴取書末尾にある署名捺印に徴し認められるから、論旨は採るを得ない。
同第三点について。
所論は、犯罪の成立を阻却すべき事由たる事実上の主張に対し原判決が判断をしなかった違法があるというのであるが、その内容は単に犯罪事実の否認たるに過ぎないのであるから、論旨は理由がない。
同第四点について。
多数の情況証拠を自白の補強証拠とすることは、差支えないところである。証拠説明は判示事実を認め得るに足ればよいのであって別段所論のような制限を認めねばならぬことはない。論旨は採るを得ない。
同第五点について。
所論は、原判決の証拠とした司法警察官作成の被告人に対する聴取書が任意性を欠くと主張するのである。しかし、所論引用の作成者の証人訊問調書の供述記載に徴し強制拷問の事実はないという証言が存し、その任意性がないと認むべき証跡は記録上に存在していない。論旨は採るを得ない。
同第六点について。
所論の供述に任意性がないとの主張は、独自の見解によるもので記録上にはその証跡を認めることができない。論旨は採るを得ない。
同第七点について。
被告人の供述は虚言病に基く証拠価値なきものであると所論は主張するが、採証は原審の自由裁量に属し本件において特に違法と認むべきかどはない。論旨は理由がない。
よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔)